被害者が事故に遭って、加害者に損害賠償請求をすることになったとします。加害者側からは最終的な示談金として一定金額の賠償金が提示されました。この金額は適正な金額なのでしょうか。
「それなりの金額がもらえるようだから、よくわからないけど、これで示談しようかな。」と思うかもしれませんが、おそらくその金額は、弁護士に依頼していれば獲得できる金額と比較すると、(ケースによってはかなり)不十分な金額だと思います。
なぜ、被害者本人が請求した場合と弁護士に依頼した場合とで獲得できる金額に差が出るのかというと、弁護士の方が単に法的知識や交渉力があるからということのほかに、特に加害者が任意保険に加入している場合には、保険会社が、相手が被害者本人なのか弁護士なのかによって、異なる算定基準を使用していることが挙げられます。
算定基準は、以下のとおり、2つ存在します。
自転車の損害保険では、各保険会社が独自に支払基準を定めています。
自転車保険は、私企業である保険会社が利益を得ることを前提として計算された支払基準ですから、少なくとも入通院慰謝料・後遺障害慰謝料及び入院雑費等定額扱いの賠償基準については、後述の裁判基準よりも低い金額が算出されることになります。
保険基準の賠償額が十分な金額といえるかというと、やはり不十分なものと言わざるを得ません。
日本では、これまで数え切れないほどの交通事故が発生し、また交通事故に基づく損害賠償請求訴訟が提起されてきました。過去に蓄積された交通事故に関する裁判例は、膨大な量にのぼっています。
これらの裁判例を精査・分析すると、裁判例においておおよそどのような基準が用いられてきたのかが明らかになります。実際に、これらを財団法人日弁連交通事故相談センターが調査し、公表したものが裁判基準です。これは自動車事故に関する基準ですが、損害の算定に関しては、自転車事故も同じく人身事故ですから、自転車事故にも全く同様の算定基準が当てはまります。
つまり、裁判基準は、その名のとおり、これまでの裁判例で損害額算定の実際の基準とされていたもので、裁判になればどれくらいの損害額が認定されるかという概算額を予め計算できる一応の目安となるものです。具体的には、上記相談センター本部が発行する「交通事故損害算定基準」(表紙が青いので「青本」と呼ばれます。)や同相談センター東京支部の発行する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(表紙が赤いので「赤い本」と呼ばれます。)として公表されています。裁判官もこれを参考にして損害額を算出しています。
この基準は、裁判になれば最終的に認められる損害額を示すものですので、十分な賠償額を算出することができ、法的根拠のない各損害保険会社の独自の任意保険基準よりも当然高額になります。